たーたん(西炯子)あらすじネタバレ試し読み!

「たーたん」(西炯子)1話

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第一話

 

雨の中、夜の街。

 

ランジェリーパブやイメクラ店がひしめくビルの入り口にたたずむ冴えないカッコに無精ひげの男。

 

名は上田敦、28歳。

 

その日、その男のポケットには全財産5万円が入っていた。

 

ぬれる手でその金をギュっとにぎりしめる。

 

大学を中退し、職を転々とし、この五万円は失業保険の最後の金である。

 

彼はその金で童貞を捨てようとしている。

 

(カネたりるよな、できればかわいい娘、できればあれとそれと、あ、これもして)

 

(これを使ったら明日喰うものはない・・・それでもいい。俺は・・・男になりたい!)

 

いざゆかん、夢の国!

 

と、その男の意気込みを遮る携帯電話の音が。

 

チラホラチラロラミー

 

――は!?

 

(こちらは○○県警の者ですが――

 

葛木征司という人物を知っとられますかな?)

 

「は・・・ハイ・・・中学からの同級生ですが・・・」

 

(そうですか・・・実はですねえ・・・)

 

「・・・すまん・・・俺・・・やってしもうた・・おまえしか頼める人間がおらん・・

 

必ず迎えに行く。名前は――鈴や。」
震える腕に抱いた赤子。
15年前のその日。その男は、童貞のまま父親になった。

 

「鈴。待ちなさい、鈴。」

 

「何よ、たーたん。遅刻するじゃん。」

 

「いーから、そこへ座んなさい。」

 

敦はリビングで鈴と向かい合わせに座った。

 

鈴のスカートは膝よりかなり短く、のぞけば中も見えそうなくらいだ。

 

敦は眉間にしわを寄せてその状態を憂う。

 

「スカートが短い。座った時中のパンツが見えそうになるじゃないか。元の長さに戻せ。」

 

鈴はあきれた表情で反応する。

 

「変態親父。朝から娘のどこを見てんだ。今どきはみんなこんくらいの長さなんだよ。てかさ、中3にもなった娘のことなんか放っといてくんないかな、もう大人なんだから。」

 

やや反抗期のようだ。

 

「父親のことをたーたんとか呼んでる娘がか。」

 

「では今日から「お父様」?」オホホ

 

「きもちワル。行ってきまーす。」

 

父親の忠告などハナから聞く気もない。

 

鈴はさっさと立ち上がって学校に出かけてしまった。

 

敦はそれ以上強くは出られなかった。

 

しかし、今は朝。

 

敦自身も仕事に行かなければならない。

 

(いかん、もうこんな時間だ。早く干さんと)

 

洗濯ものを持ってベランダに出た敦の目に飛びこんできたのはすでに干されている鈴のブラジャー。

 

はっ

 

(こ・・・こんな下着、あいつ・・いつ買った!・・・こんな・・・こんなのは・・・いかーん!!)

 

こないだまでクマさんのパンツだったのに!

 

鈴の可愛い下着を手に焦る敦。

 

その後ろから忘れ物を取りに戻った鈴が近づいてきた。

 

「なにしてんのよ変態!」

 

「いやだからこれはちょ待」

 

娘は今年中学三年生になった。

 

「たーたん」は、幼児だったとき「とうさん」が言えず、そのまま定着したのであった。

 

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「おはよーございまーす。」

 

寒い冬の日、敦はいつものように自転車で仕事場のシロネコ急便に向かった。

 

神棚に手を合わせいつものように朝が始まる。

 

「4月っつってもまだ寒いねえ。」

 

「泉町2丁目の橋、今日から通行止めだそですよ。」

 

「あの、上田さん、ちょっと。」

 

呼びかけられた敦が振り向くと、同僚の妹尾と見知らぬ女性が立っていた。

 

「こちら今日から入る、バイトの片岡さんです。」

 

「片岡でーす。よろしくお願いしまーす。」

 

にこっ。

 

可愛い感じの片岡がさらに可愛い笑顔を振りまく。

 

「ども、よろしく」

 

敦はその笑顔に反応することもなくコソコソと帽子を被って離れていった。

 

「上田さんここで一番長いからなんでも聞くといいわ。じゃ、二階案内するから。」

 

「・・・ハイ。」

 

他の吉田や井上たちは片岡を見てかわいいと浮足立っていた。

 

「始業時間ですよ。井上さん、吉田さん、佐藤さん」

 

妹尾は冷たく言い放った。

 

 

「妹尾さん機嫌悪いんじゃないんスかね。でもあの人もう35でしょ?若い子に勝てるわけないっつうのに。」

 

「しかし片岡さんかわいいっスね〜彼氏とかいるんスかね?」

 

「さあねぇ」

 

そんな同僚たちの反応にも敦は乗らずに宅配便の車で出ていった。

 

「上田さんってこういうことに乗ってこないっスよね。」

 

「あの人は娘さん一筋だから。」

 

しかし一人になった敦はかわいい片岡さんを思い出してにやついていた。

 

(へーえ・・・片岡さん、か。かわいいなあ・・・)

 

その頃、学校では鈴が放課後のクラブでテニスの練習をしていた。

 

ハーイ
ハーイ
スコーン

 

見逃したボールが鈴の横を転がっていく。

 

「ごめん川畑ー、サンキュー。」

 

「100円」

 

その川畑と放課後一緒に下校しながら鈴は気になっていたことを尋ねた。

 

「川畑、やめんの?サッカー部。」

 

「まあ、もう三年だしね〜〜」

 

「夏までやればいいじゃん。なんだよ、来月の試合、メンバー入りできなかったぐらいでさ。」

 

「来月の練習試合に出らんないってことは、夏の大会にも出らんねーってこと。3年だけで18人もいんだぜ。最後だってだけでメンバー入りできるような甘い部じゃねぇんだよ、うちは。」

 

「それですねてんの。ガキか。」

 

鈴の横顔を目だけで追って、川畑は挑発するような鈴の言葉には乗らずに返す。

 

「すねてねーし。現実を正しく認識してんだよ。」

 

「現実って何よ。自分の努力が足りないってこと?自分に負けてるんじゃん。」

 

「・・・おまえにはわかんねえよ。」

 

川畑はそれ以上鈴と話すのをやめ、鈴を置いて帰っていった。

 

その後姿をぼんやり見ながら鈴はつぶやく。

 

「・・・・・・がっかりだよ。」

 

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「おつかれさんスー。」

 

「ハイおつかれ。どうまだある?」

 

「今日ちょっとありますねえ、夕方以降の再配達分。」

 

同僚の車の中には夕方の配達分の荷物が高く積まれていた。

 

「じゃ手分けすっか。」

 

「いいっスか、すんません助かるっス!」

 

敦の申し出に同僚は喜んだ。

 

「今日、俺、不在一軒もなかったんだわ。」

 

不在があればまた行かなければならず二度手間になる。

 

それがないとずいぶんはかどるのだ。

 

「へえ、マジすか。」

 

「15年やってるけどこういう日はあんまりないねえ。」

 

「えっ上田さんて15年選手っスか。長いっスね!」

 

「・・・気がついたらね・・・」

 

――そう、必死だった――

 

(娘をなんとか育てるために、不自由な思いをさせないように、必死で・・・必死で働いてきて、それで・・・まさか・・・43歳のこの齢まで童貞でいるとは思わなかったです・・・)

 

 

(こういうことっていつかなんとかなるんじゃないの・・・と思って過ごしてたら・・・なんとなく機会を逸してついに不惑を越えてしまいました・・・や・・・娘が元気に育ってくれてることが一番の幸せではあるんですけど・・・最近・・・「ひょっとして本当に俺、一生女を知らないまま死ぬんじゃ」と思うようになって・・だから・・・)

 

(神様どうか・・・こ・・・今年くらいには・・・なんとか俺もどうにか、できれば・・・こんな年になってあれなんですけど、できれば・・・そのぅ・・・)

 

などと神棚に真剣にお願いしているなんて周りは少しも思わない。

 

「上田さんって信心深いよな、朝夕ああやって。」

 

「だから無事故無違反なんスかねー。」

 

と、いいように誤解されていた。

 

 

「おかえり鈴〜」

 

学校帰りの鈴を見かけた敦が声をかける。

 

その時に一陣の風が鈴のスカートをめくる。

 

「パッパッパ・・・パンツが・・・っ!」

 

「娘に会えばパンツの話か変態親父。」

 

「腹減ったなあ〜〜今日は揚げ物とかガッツリいきたいなぁ〜〜」

 

「ダメだよ。」

 

「え?」

 

「たーたん最近お腹出てるから。」

 

「たまにはいいだろ。」

 

「ダメ。メタボ。デブ。」

 

やや反抗期の娘は言葉を選ばない。

 

「・・・おまえ親にひどいことを・・・」

 

「現実を見なさい。去年のズボンが入らないでしょ。服にも金がかかるでしょ。不経済!」

 

そうまで言われては仕方ない。

 

「わ、わかったよ。今日はガマンする!」

 

娘に弱い敦は素直に従った。

 

「よし」

 

 

「・・・ねえ、」

 

「ん?」

 

「お母さんの得意な料理ってなんだったの?」

 

「え?」

 

敦は思ってもいない質問が飛んできて思わず真顔になった。

 

鈴は返事を待っている。

 

「・・・に、肉じゃが・・・とか?」

 

「何で疑問形?」

 

「む・・・昔のことだからなあ・・・そう、煮物!煮物がうまかったよ。」

 

照れたように話す敦であったが娘の顔は見ることができない。

 

(娘は知らない、実の父親が、人を殺して刑務所にいることを。俺が、本当の父親ではないことを。)

 

娘は知らない。

 

敦はそれをまた心の奥底に深く沈め、鈴に笑いかけた。

 

「しっかりつかまってろよー。」

 

「でもさー、これおまわりさんにつかまんなーい?」

 

自転車の後ろに鈴を乗せて親子二人の帰路につく。

 

「8時からアレだろ。「嵐さんといっしょ」始まるんだろ?」

 

「うん!」

 

(「必ず迎えに行く」その日まであと一年)

 

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